追試対象とした論文

Vize, C. E., Collison, K. L., Miller, J. D., & Lynam, D. R. (2020). The “core” of the dark triad: A test of competing hypotheses. Personality Disorders: Theory, Research, and Treatment, 11(2), 91–99. https://doi.org/10.1037/per0000386

ダークトライアド(Dark Traid)について

ダークトライアド (以下, DT) とはナルシシズム、マキャベリズム、サイコパシーという社会的に望ましくないとされる3つの性格特性の総称です。

ナルシシズム: 自己を過大評価して主導的にふるまい、誇大感を維持しようとする自己中心的な傾向を表す特性
マキャベリア二ズム: 合理的な道徳観を有し、冷笑的に世界を捉えて他者操作的に行動する傾向性を表す特性
サイコパシー: 罪悪感や共感性に乏しく、利己的かつ反社会的な行動をする傾向性を表す特性

この研究のねらい

DTの各構成概念には、それぞれを他の構成概念から区別することができる要素があります。一方、全DTの中核的な要素を検証することが本研究のねらいです。
3つのDTの中核的な要素が、ビッグファイブの調和性、HEXACOの正直さ-謙虚さとどのように関連するかを検証しました。

追試対象とした論文では、潜在変数化したDTの核とビッグファイブの調和性との間にr = -1.00 (IPIP-NEOで測定した調和性)、r = -0.78 (BFI-2で測定した調和性) の負の相関が確認されています。またHEXACOの正直さ-謙虚さとの間にはr = -0.96の相関が確認されています (Vize et al., 2020 の Table 1)。

本研究では、この関連性が再現できるかを確認します。

方法
調査手続き・参加者

インターネットのリサーチモニタに登録されている成人を対象に、オンラインにて質問紙調査を実施しました。
回答者の負担を考慮し、① SD3・BFI-2の調和性に回答するサンプル、② SD3・HEXACOの正直さ-謙虚さ・IPIPの調和性に回答するサンプルの2つに分けて調査を行いました。

Vize et al. (2020) で報告されている相関係数をもとに検定力分析を行い、 今回はそれぞれの調査フォームに回答するサンプルのサイズが100名になるよう調査を行いました。
調査の結果、①のフォームでは120名、②のフォームでは122名分の回答が回収できました。
回答が全て同じである回答者は不誠実な回答として扱い、①の回答者120名のうち5名、②の回答者122名のうち3名の該当者を削除しました。
合計234名の回答データをもとに、SD3から得られるDTの核と、3つの変数 (HEXACOの正直さ-謙虚さ・BFI-2の調和性・IPIPの調和性) の関連性を分析しました。

使用した尺度
  • 日本語版Short Dark Triad (SD3-J: 下司・小塩, 2017)
  • IPIP-NEO-120のうち調和性 (agreeableness) を測定する項目
  • 日本語版BFI-2 (BFI-2-J: Yoshino et al., 2022) のうち調和性を測定する項目
  • 日本語版HEXACO-100 (Wakabayashi, 2014) のうち正直さ-謙虚さを測定する項目
結果

分析の結果、ダークパーソナリティの核はBFI-2-Jの調和性,HEXACOの正直さ-謙虚さとの間で統計的に有意な相関が確認できました。
しかし、IPIPの調和性との間の相関は統計的に有意ではなく、Vize et al. (2020) の結果を再現できませんでした。
詳細な相関係数は下の表のとおりです。

まとめ

HEXACOの正直さ-謙虚さについては、ダークパーソナリティの核と高い負の相関が得られ、誠実さや道徳的な意識、謙虚な態度の低さがダークパーソナリティの核と重複することが分かりました。
BFI-2の調和性についても有意な負の相関が得られました。しかしVize et al. (2020) の結果よりも低い相関となりました。今回の調査では、BFI-2はHEXACOと別のフォームに入れてしまっていたので、BFI-2の調和性とHEXACOの正直さ-謙虚さとの関連性を確認できず、先行研究との結果の違いの理由については分かりませんでした。
IPIPの調和性については,ダークパーソナリティの核との間に有意な相関が得られませんでした。そもそもIPIPについては、日本語のものの妥当性の検証が済んでいることが確認できず、もしかするとIPIPの日本語の項目自体に測定上の問題があったかもしれません。

文責:岩井・川西・増田・宮崎・水本