追試対象の研究

Salmon, C. A., & Daly, M. (1998). Birth order and familial sentiment: Middleborns are different. Evolution and Human Behavior, 19(5), 299–312. https://doi.org/10.1016/S1090-5138(98)00022-1

先行研究の概要

この研究は、家族内での役割と出生順位が、個人の自己認識・自己表現と関連があるという先行研究に基づき行われました。
特に、家族構成の中での位置づけが、個人の自己認識と親しい人との関係性と深い関連があるかを調査しました。

この研究では、「アイデンティティと家族関係」に関するアンケートを実施し、出生順位、母親の年齢といった変数を用いて、性別や出生順位に基づく親密な相手の指名傾向をカイ二乗検定で統計的に分析し、家族構造が個人の親密な関係や自己認識に及ぼす効果を明らかにしようとしました。

仮説

長子と末子は、中間子に比べて親、特に母親を最も親しい人物として指名する傾向が高いと予想しました。
さらに、被験者の誕生時に母親の年齢が高い場合、この傾向はより強くなる可能性があると考えました。
また、自己認識に関しても、長子と末子は中間子と比較して家族関連の用語を使用する頻度が高いと考えられます。

方法
調査手続き・参加者

インターネットのリサーチモニタに登録されている成人を対象に、オンラインにて質問紙調査を実施しました。
Salmon& Daly (1998) において報告されているカイ二乗統計量とサンプルサイズより、効果量を算出しました。
その値に基づき、有意水準を5%、検定力を80%と設定し、G-Powerを用いて必要サンプルサイズを算出したところ64人という値を得ました。
そこで、余裕を持たせるため、今回の研究では目標サンプルサイズを100人に設定しました。
調査の結果、合計で111名の回答を得ることができました。

測定した項目
  • 回答者の出生順位
  • 回答者が生まれたときの母親の年齢
  • 最も親しい人物との関係性を、「あなたが知っている人の中で,心理的距離が最もあなたに近い人は誰ですか? その方との関係性(例:母親,祖母,弟 など)をお答えください。」という質問でたずねました。
  • 自己認識について、「私は」からはじめる形で、回答者がどのような人なのかわかるような文を10個、記述するように求めました。
分析手続き
  1. 出生順位と親しい人物に両親を指名する割合について、男女別でカイ二乗検定を行いました。
  2. 出生順位と出生時の母親の年齢との関連で、母親を指名する比率を算出しました。
  3. 分析のために母親の年齢の中央値で2群に分け、その2群と出生順位、最も親しい人物として母親の名前を指名する比率との連関を、カイ二乗検定で分析しました。
  4. 自己認識に関する10個の記述の中で、家族内での立ち位置など家族に関する単語を挙げた割合と出生順位の連関について、カイ二乗検定を行いました。
結果

男女別に、最も親密な相手としてあげた対象と、回答者の出生順位の連関をカイ二乗検定により分析しました。
その結果、出生順位によって、最も親しみを感じる相手に差があることが示唆されました (χ2 = 9.74, df = 4, p = 0.045 [女性]; χ2 = 140.50, df = 4, p < 0.001 [男性])。

つづいて、出生順位ときょうだいの人数ごとに、親しい人物として両親をあげた人の割合を確認しました。
なお、サンプルに含まれる中間子の人の割合が少なかったため、中間子については信頼できる結果が得られませんでした。

つづいて、回答者の出生時の母親の年齢と、親しい人物として母親をあげた人の割合を、回答者の出生順位ごとに確認しました。
その結果、末子と中間子では、出生時の母親の年齢が高いと親しい人物に母親を挙げる割合が高いことが分かりました。

最後に、自己認識を問う質問に対する回答において、家族に関連する単語が出てくる割合について、中間子が家族に関連する単語を挙げる傾向が低いということが分かりました (χ2 = 12.02, df = 2, p = 0.002)。

まとめ

出生順位によって、最も親しい人として指名される対象が異なるという結果は、Salmon & Daly (1998) の先行研究と一貫するものでした。

自分の出生時の母親の年齢と、親しい人として母親をあげる人の割合との関連について、本研究ではその差が長子では見られませんでした。
また、中間子では、母親の年齢が高い群の方が母親を最も心理的距離が近い人としてあげる割合が高く、この2つの点は先行研究に反する結果となりました。

自己認識において家族に関連することから自分を説明しようとする回答は、中間子においてその割合が低い結果となりました。
これはSalmon & Daly (1998) の先行研究と一貫するものでした。

今回の調査では一部の結果がSalmon & Daly (1998) の結果と一貫しないものでしたが、おおむね、先行研究の結果と整合的な結果が得られました。
出生順位によって、心理的距離が近い重要な他者や、自己認識の仕方に差が見られるというのは興味深い結果です。
ただし、今回はサンプルに含まれる中間子の割合が少なく、特に男性の中間子が一人しか含まれていなかったため、結果が不正確なものである可能性もあり、注意が必要と思われます。

文責:浦上・田所・中村・三浦